日本酒が魅せる、杜氏の美しい酒造りの姿勢
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御神酒酒屋として始まった2つの蔵元、浦霞醸造元の株式会社佐浦と阿部勘醸造元の阿部勘酒造店を尋ねた。どちらも地元塩釜の人々から「しおがまさま」と愛され、重要文化財にも指定されている鹽竈神社へ、伊達家より酒を納める命を受けた長い歴史をもつ蔵元だ。
●受け継がれてきた杜氏の技
かつては稲穂が頭を垂れると酒造りが始まる、というのが杜氏の慣習であったという。年に一度、軒先に杉玉を吊るすことで新酒の搾り始めを知らせた。杉玉が枯れ茶色がかってくると酒が熟成してきた印だ。現在は、試行錯誤のすえ、冬季だけでなく秋、春にも酒造りを行う三季醸造ができるようになったが、今でも軽トラック1台分ほどの杉の葉を持ってきて軒先に吊るしてある。そう話してくれたのは、浦霞を造る小野寺杜氏。酒造りを始めて約40年になる小野寺杜氏も、毎回同じ日本酒はできないと語る。同様に阿部勘を造る平塚杜氏も日本酒は農作物のようなものだと話してくれた。これだけ長く身近にある日本酒だが、職人技のうえに成り立っていることを感じさせられるストーリーだ。
●酒への愛から生まれるこだわり
日本酒と一言でいっても様々な種類があることはご存知だろう。原料や製法において基準を満たしたものにのみ、その名を名乗ることが許される特定名称酒(吟醸酒・純米酒・本醸造酒)を造る割合が、全国平均30%程度であるのに対し、宮城の酒は85%を超えるというから驚きだ。米の表面は雑味やたんぱく質が多く酒造りには向かない。通常は1割程度削って日本酒にする事が多いが、大吟醸となると5割以上削る。選びぬかれた米を贅沢に削り落とし、温度管理を徹底し、通常よりも長時間での発酵を行い、固有の香味、色艶が特に良好とされるものだけが大吟醸となるのだ。
▲大吟醸のために6割削った米は、まんまる。この米をやや固めに蒸気で蒸しあげていく
●食中酒として愉しめる宮城の酒
食事の際に日本酒を嗜むと、料理が進み、そしてまた酒が進む。宮城の日本酒は、主役ではなく名脇役としてすっきりと飲み飽きのこない味わいのものが多いという。料理をしっかりと受け止め、その余韻を愉しませてくれる日本酒は、ビールでもワインでも代替えがきかないという。海の幸、山の幸、どんな食材にも合わせやすいのは、どちらの食材も豊富な宮城ならではの特徴だろう。宮城の日本酒を造る杜氏は、酒の先にある食卓を見て酒造りを行っているという。日本酒がいかに長く地元で愛され、なくてはならない存在であるかを物語っているようだ。
取材協力:浦霞醸造元 株式会社佐浦、阿部勘醸造元 阿部勘酒造店(宮城県塩竈市)
▲創業亨保元年の阿部勘酒造店、平塚杜氏。時期になると休みなく酒造りを行うこともあるという
[chef’s voice]宮城で食材を吟味したシェフの声
THE COSMOPOLITAN GRILL|BAR|TERRACE 南館9階 片山ヘッドシェフ
宮城の日本酒は、ワインよりもキレが強く、それぞれの特徴が分かりやすいと話してくれた片山シェフ。なかでもすっきりとした味わいの日本酒が気に入ったシェフは、味噌を使った料理で日本酒とあう一皿ができるのでは、とその場で考案。宮城の農家の作る自家製味噌を気に入り現地で購入。くせのあるハーブのソースとともに食べる味噌を練り込んだ仙台牛のグリルは、日本酒が進む一皿に。