日本の奥ゆかしく美しい、食と向き合うお作法
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あまり知られていないかもしれないが、福井県は食育の先進県であると言われている。なぜかといえば、福井県出身の石塚左玄氏が、「食生活が心身ともに健やかな人間を作る」という「食育」を、日本で初めて提唱したことに由来する。食に造詣が深く、精進料理の心得を持つ一智和尚の話から、食育についてもあらためて考えてみよう。
食べる相手を思いやるもてなしの心
味噌汁なら白米、おすましなら味付けご飯と組み合わせにも気を配る。味の濃いものと薄いものの組み合わせが良いというが、一智和尚は白米をあまり出さない。「最近、お子さんでも白米が苦手な方もいますから」と、味が付いたご飯ならみんながおいしく食べてくれるのではないかと、ご飯に大根菜を混ぜるなど工夫をしている。包丁の入れ方でも、例えば飾り包丁が入っていたりすれば、食べる側にももてなしの心が伝わる。「極力食べる側の気持ちを考えます。私たちは、どうぞ召し上がってくださいという気持ちで作らせていただいています」。
相手のことを細やかに考えた最大限のもてなしは、相手にとっては嬉しく、感謝の気持ちが生まれるもの。作り手も食べる側も、お互いが気持ち良い時間を過ごすことにつながるのかもしれない。一智和尚にとっての「食育」とは、「食を一緒に育むもの」だと教えてくれた。
食べられることは当たり前ではない
道元禅師が「赴粥飯法(ふしゅくはんぽう)」に記した「五観の偈(ごかんのげ)」。今でも曹洞宗の寺ではその食事作法が実践されているという。現代の私たちにとって、食べるということは、当たり前になってしまっているかもしれないが、五観の偈に書かれている言葉は、食べるということは決して当たり前のことではないことに気づかせてくれる。
※五観の偈注釈
一、いま口に入れようとしている食事はいただくまでに、
いかに多くの人々の手数や苦労があったかを深く考え、
感謝していただきましょう。
二、私たちは、この食事をいただくに値するほどの
正しい振舞や、世のため人のために役立つような行いを
しているかどうか深く反省していただきましょう。
三、生まれながらにして持っている美しい心をくらます、
むさぼり、いかり、ねたみの三毒をおさえ、
修行の心をもっていただきましょう。
四、食事は、単に空腹を満たすためではなく、
私たちの身と心の弱まりを治す良薬であるから、
正しい目的をもっていただきましょう。
五、いまいただく食事は、身心ともにすこやかに、
仏の道を成ずるため、ともに理想をもっていただきましょう。
●Interview-インタビュー-
曹洞宗陽光山徳賞寺 副住職 粟谷一智 氏
1982年、徳賞寺の次男として生まれる。大学卒業後、永平寺で修行を積み、24歳の時、永平寺で長く典座をしていた僧のもとで精進料理を学ぶ。父である住職も典座、そして母も叔母も栄養士という環境の中、自身も昔から料理が好きだった。現在、ハイブリット精進料理を通して、お寺の門戸を開く。
◆日本の精進料理の礎を築いたルーツ
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精進料理の心を守り伝える永平寺
福井県吉田郡永平寺町にある曹洞宗の大本山永平寺は、約770年前の寛元2年(1244年)に開創された出家参禅の道場。開祖である道元禅師は、わが国の精進料理の発展に非常に大きな影響を与えた存在としても知られる。毎日の暮らしに欠かせない食事については特に重視し、「典座教訓」をはじめ「赴粥飯法」などを記して尊さを説いた。「典座」とは、「食」を司る重責を担う役僧のことだが、永平寺の精進料理は、「典座教訓」の尊い教えを柱としながら、その時々の典座を中心に、創意工夫を重ねながら継承されている。