グランフロント大阪で2013年からはじまった、
食のめきき力を磨く
プロジェクトUmekiki(うめきき)。
ここでは、普段なかなか見えない料理の
裏側にいるシェフや生産者など
食に関わるさまざまなプロたちの知識や経験を
FOOD STUDYとして紹介していきます。
さぁ、おいしいをめききしてみましょう。
麗しく、みずみずしく、
溢れる美のシルシ。
小さな宝石『まりひめ』に宿る、
艶の秘密を暴く。
和歌山県にある紀のファーム(株)代表取締役の林真司さんが、両親の農園を受け継いだのは2019年のことだ。
2017年に就農するまでは、海外でIT系企業で働くなど、農業とは縁の遠い職に就いてきた。しかしもの心ついた時からずっと、心の中には「いつかは、僕も農業の仕事を」という想いがあったという。現在は、先代から続く苺の生産を中心に、桃やイチジクなど約6種類のフルーツ生産へ取り組んでいる。
「これまで『さちのか』一本でやっていたのですが、今は和歌山県の希少品種『まりひめ』だけを育てています。僕にとってまりひめは、苺本来のおいしさを感じる理想の味わいなんです」と、力強く語る林さん。鮮やかで艶をもった朱色に、ふっくらとした姿が華々しいまりひめの味わいとは、いったいどのようなものなのだろう。まりひめが育つ環境とは? そこでは、どのように苺と向き合っているのだろうか。紀の川が大地の恵となるこの場所で、そのこだわりをのぞいてみよう。
まりひめから受け取る、
親愛に満ちたメッセージ
黄金比のようなおいしさを持つ
苺・まりひめとは?
和歌山県が開発したまりひめは、さちのかとあきひめを掛け合わせて生まれた品種だ。林さん曰く、「ほのかに酸味と歯応えがあるさちのかと、みずみずしくて甘味が強く、やわらかな食感のあきひめのいいとこどり」なのだそう。やわらかいが歯応えもあり、甘みの中に酸味が見え隠れする、黄金比のような味わいだ。
「すごくおいしい苺なんですが、病気に弱くって。苺は育苗の際に炭疽病(たんそしょう)にかかることがあり、まりひめはこれにかかると、一気に広がっていく。土壌にある菌なので、雨や風で苗に土や水が撥ねるだけで発症してしまうんです。うちは手灌水(しゅかんすい)を徹底していて、1苗ずつ水をやる時に病気の兆候を確認し、あればすぐに除去しています」。もちろん必要なのは病気を防ぐことだけではない。その要として、林さんは土づくりを挙げている。
−艶やかさが証明する、苺の熟し具合
「苺は9月末頃に定植をするのですが、暑さに弱いので初期生育がものすごく大事。8月の土づくりで、力のある土をつくることが重要です。いい土づくりができれば、苺も水分をしっかり吸い上げることができ、健康的な苺、つまり艶やかな苺が生まれるんです」。林さんが言うには、必要な栄養をしっかり蓄えた健康的な苺であればあるほど、実は艶やかに光る。たっぷりとした水分を含むことで、表面にある種のような痩果と痩果の間がはちきれんばかりに広くなり美しい艶が畑を彩るのだ。
私たちは苺と言葉を交わすことはできないけれど、注いできた情熱がこちらからのメッセージだとすれば、周りを密かに照らすその艶やかさは、苺からの“親愛に満ちた応え”のようではないだろうか。
科学を相棒に、
まりひめのレシピをつくる
「農業って、今まで“頑固親父のこだわり”というようなイメージが少なからずあったと思うんです。でも今はそれを、科学に基づいたやり方で理解し言語化する時代。誰がやってもできるというところが、これからの農業に必要なこと。父は40年近く農業をやってきた中で土づくりに特にこだわっていた人だった。その良さを分析していき、手がかりをつくるような農業に取り組みました」。
先代が経験を積み得てきた土づくりへの視点を、「そこで終わらせない」という志で追いかけてきた。今も土づくりへ使っているサトウキビの残渣や貝殻粉末、完熟堆肥は栄養を土に蓄えるために先代の知恵を譲り受けたものだ。必要な材料とその分量を毎年見極めて、苺を育てる土台を言語化する作業は、言わばまりひめのためのレシピをつくっているようにも思える。
さまざまなシルシが、
成長を物語るバロメーター
一面に広がる、
大きな葉からわかること
話を聞きながらまりひめの栽培ハウスへ足を踏み入れると、そこには大きな葉がふさふさと広がっていた。その下には、見事な白い花が見え隠れする。よくよく葉っぱを見てみると、葉先に白い粉のようなものが目に入った。
「これは水分が蒸発した跡。つまり、土壌の水分をしっかり吸い上げている証拠なんです。早朝にハウスへ来ると、葉っぱには水滴がついていて、それがみずみずしい苺がなるかどうかのバロメーターでもあるんです」。水滴がついた葉が広がる様子は、さぞ幻想的だろう。
まるで繊細な
ジュエリーを扱うように、
苺を導く収穫の様子
「花が大きく咲くのも、大ぶりのしっかりとした実がなる証です。12月から収穫が始まりますが、苺を摘むのもまたパワーがいる仕事。艶がある苺というのは、傷んでいない証拠なんです。少しでも傷がついてしまうと、そこから傷み艶はなくなってしまう。だから収穫する際は、絶対に両手どり。親指と人差し指で、額の上を折って優しくもう片方の手のひらで受け取ります」。その言葉からわかる通り、たった一つの小さな傷でさえ味が変わってしまう苺は、収穫からパック詰めまで2回しか触れないことが理想だ。
「苺だけでなくフルーツは、ビタミンをはじめとした栄養素が豊富で体に良いもの。だからこそ誰でも手軽に食べられるようなものをと思って、苺づくりを続けてきました。以前まりひめを食べた知人が、『練乳をかけていないのに、練乳の味がする!』と言ったんです。つまり、甘みをしっかりと感じてくれたんでしょうね。これまでつくってきて一番嬉しかったことです」と、林さん。
食べるのは手軽でも、その本来の美味しさは、ただ育てれば自然と備わるものではなく、丁寧に目をかけるからこそ備わるものだった。
いつか、ここ紀の川で、
壮大な景色を
夢は、土地を象徴する
フルーツ農園で在ること
「近隣で農業を辞めた農園の土地を少しずつ購入し、新しくレモンの木を500本栽培する予定です。昔、オーストラリアでワーキングホリデーをしていたことがあるのですが、フルーツ農園で見た光景が忘れられなくて。日本と規模が違うのは当たり前ですが、一面に農園が広がる壮大な光景に、いつか自分もこんなふうにできたらと思うようになりました。自分が生まれ育った場所を再生したいという思いもあります」。
未来のレモン畑を目前にする林さんへ、「紀のファーム」の名前の由来を聞いてみた。先代の時は、名前をそのまま農園名にしていたからだ。
「この辺りの農協は、“紀”の里農協と言うんです。川の名前も、“紀”の川。やっぱり農業を続けるからには、少なくとも紀の川市を代表するような農園にならないといけないという思いがあって、付けました」。
この“紀”の土地を象徴する存在を目指して。 ここ紀の国で生まれた小さな宝石を、ぜひ味わっていただきたい。
Profile
TEA ROOM
KIKI
今回取材した紀のファームの
まりひめを使ったスイーツ
取材時の秋は、これから苺を実らせるために、大きな葉や花が広がっていた紀のファーム。12月から収穫したみずみずしいまりひめは、TEA ROOM KIKI 紅茶&スコーン専門店のスイーツメニューに追加トッピング。この旬でしか食べられないひと皿とともに、アフタヌーンティーを楽しんで。
KIKI's クリームティー
2,080円/ティーフリー付き(税10%込)
冬季限定 “いちご”トッピング +610円(税10%込)
※食材の産地や内容は入荷状況により、告知なく変更させていただく場合があります。
詳細は、FAIRページをチェック
店内ご飲食(消費税10%)
テイクアウト(消費税8%)
※表示のない商品は、店内ご飲食のみのご提供となります。※価格はすべて税込です。※価格記載のない商品はイメージです。※一部店舗により期間は異なります。※お酒は二十歳になってから。 飲酒運転は法律で禁止されています。※数量限定、食材の在庫により品切れの際はご容赦ください。※料理画像はイメージのものもございます。実際の商品と異なる場合がございます。※料理内容・価格は変更になる場合がございます。※提供時間は店舗により異なります。詳細は各店舗にてご確認ください。※テイクアウト時、 袋代が別途必要な場合がございます。※テイクアウトとデリバリーでは表記価格と異なる場合がございます。詳しくは店舗まで、 ご確認ください。※内容は予告なく変更する場合がございます。※営業時間を変更・休業している場合がございます。詳しくはホームページをご確認ください。※掲載情報は、2025年1月15日現在の情報です。