Food Study
グランフロント大阪で2013年からはじまった、
食のめきき力を磨く
プロジェクトUmekiki(うめきき)。
ここでは、普段なかなか見えない料理の
裏側にいるシェフや生産者など
食に関わるさまざまなプロたちの知識や経験を
Food Studyとして紹介していきます。
さぁ、おいしいをめききしてみましょう。
みずみずしく輝き出せば、
季節一番の甘さの知らせ。
大地の恵みとともに育む、
ルビーのような朝採れイチジク。
兵庫県川西市に本店を構える、南フランス料理店チェサピーク。グランシェフが食材を厳選し、そのおいしさを丁寧に引き出す創作フレンチは、ここグランフロント大阪店でも、変わらぬ視点でこだわりのひと皿を手がけている。そんなチェサピークが長年愛してきたのが、同じく川西の大地で育った古川農園のイチジクだ。
「毎年夏が近づくと、お客様から『イチジクのメニューはそろそろですか?』と問い合わせがあるんです」と支配人の川口さん。「古川農園のイチジクは、大ぶりでみずみずしい甘さ」と語り、その完熟の味わいを逃さぬように、自ら朝採れイチジクを受け取りに古川農園を訪ねている。
古川農園がイチジクの栽培を始めたのは、今から約60年前。現在は、お母さんの節子さんと息子さんの雅之さんのふたりでイチジクを育てているそうだ。川西の大地の恵みとも言えるおいしさの所以を求めて、チェサピークの川口さんと共に古川農園を訪ねた。
日本で初めてイチジクが育った、
川西だからこその味
川西の水と土壌のイイ関係
鋭い太陽の日差しが照る7月のある朝、古川農園を訪ねると、節子さんと雅之さんが笑顔で迎えいれてくれた。約200本のイチジクの木が並ぶ農園は、木の立派な立ち姿が頼もしい。
「収穫は、だいたい8月から10月頃。朝4時から始めることが多いですが、忙しい日は深夜2時から収穫する日も。昔は、ヘッドライトをつけて22時から収穫していた時期もありました。夏になると家族全員が寝不足で、幼い頃は夏休みが大嫌いでした」そう笑みを見せながら昔を振り返る雅之さんが、亡くなったお父さんからこの農園を継いで13年になる。農家としては現在6代目、イチジク栽培は節子さんがお嫁に来る少し前から始まったそうだ。
夏から秋にかけて収穫されるイチジクが、たっぷりと甘さを含んでいるかどうか、最初の勝負は6月だという。イチジクの木の枝が伸びだすこの時期に、水をたっぷりとあげることが要となってくるのだ。「ちょうどこの横に猪名川が流れていて、5月になると水路を掃除するんですね。そして6月には水路を開けて、猪名川の水をイチジクの木が浸るぐらいまで畑に流すんです。たくさんの清らかな水を使える上に、この地域の土は小砂利などが層になっていて水捌けがいい。パッと水が入って木と土を潤し、さっと乾いてくれる。イチジクは水が大好きなんで、これを2〜3日に1回繰り返していくことで、木がのびのびと育ってくれるんです」と雅之さん。まさに猪名川が悠々と流れる川西という地域ならではの恩恵だ。「イチジク栽培には適した土地で、日本で初めてイチジクが栽培されたのも川西なんです。ちなみに、うちのイチジクは、川西の名品と言われてるんですよ」。はにかみながら、そう雅之さんが教えてくれた。
儚さをあわせもった貴重な味は、
機が熟した今だけの味
過保護にならずにはいられない、
完熟イチジクが実るまで
葉っぱ1枚に実が一つなるイチジク。すべての実に栄養を行き届かせるために、古川農園では枝1本に対し10個から15個程度の実がなることを理想としている。そのために、均等に陽が当たるようにU字の鉄柵に枝を一本一本くくるのも、忘れてはいけない仕事の一つだ。「風が吹いて葉っぱが揺れると実に傷がつくから、陽当たりだけでなく揺れないように枝をくくる。ちょっとした傷ですぐ傷んでしまうのがイチジクだから」と語る節子さん。しかもイチジクは水が好きなのに、実は雨に弱い。雨を浴びると実の先端から水が入り、赤く染まった実が真っ白になってしまうそうだ。同時に甘みも弱くなってしまう。大ぶりな見た目からは想像もつかないような、儚さをあわせ持った果実なのだ。
「チェサピークでは、一年使用するイチジクをすべて古川農園さんから仕入れているので、完熟のものはその味わいを感じられるオードブルやデザートに。みずみずしいものはケーキ用に。用途を変えておいしさを引き出しているんです」と、川口さん。大切に育ててきたイチジクをロスにすることのなきように、二人三脚で歩いてきた。
艶やかな輝きで知らせる、
最高潮の甘み
繊細なイチジクには、もう一つの特徴がある。それは、追熟しないということ。他の果物は、収穫後に熟し続けるものがあるけれど、イチジクは採った瞬間に甘みの成熟が止まる。「だからこそ、一番甘くなった瞬間に採らないといけないんです」と雅之さん。では、一番甘くなった瞬間というのは、どのように見極めるのだろうか?
「収穫時期になると、根本の枝に実ったイチジクから順々に赤くなっていくんです。下の実を採ると、上の実が赤くなる。でも色だけでは騙される時があるんですね。見極める要は、輝き具合。甘さが達してくると、光るように艶が出てくるんです。その実にそっと指を当てて、指先に弾力のあるやわらかさを感じれば、完熟を知ることができる。触って甘さを測る。触りすぎると傷んでしまうので、収穫時と選別時の2回しか触らないように心がけています」。
もちろんより良い土壌を作るために有機肥料を使ったり、お父さんの後輩でもある肥料屋さんが手がけた古川農園特製の肥料である“隠し玉”を撒いたり、環境を整えることは忘れない。しかし二人の話からは、“余計なことはせず、川西の自然の恵みを敬い最大限に活かす”という姿勢を感じずにはいられない。そこで生まれた、儚いおいしさを食べ手が味わえるのは、朝採りを届けることができるからこそ叶う贅沢だ。
季節によって変わる甘みから、
生命を扱う実感を感じて
その時々の甘みを、
チェサピークと共に食べ手に届ける
「夏の完熟イチジクはみずみずしさが強いですが、秋に向かううちに、完熟の味わいも変わってくるんです。少し小ぶりになって、みずみずしさはありつつも水分は今より少ない。濃くてまろやかな甘さになるんですね。それもまた、おいしいんです」。
季節で完熟の定義も変わる。つまり、移ろう完熟の甘みに、季節を感じることができる。それはなんだか、理想の甘さを目指して形づくる世界ではなく、自然の中でイチジクという果実がまさにイキイキと生きることで、周りの環境に応えながら甘さを身につけているのだと感じるエピソードだ。そんなその時々の個性を持ったイチジクが、どのように食べ手に届けられているのか。長年共に歩んできたチェサピークを通して、その様子が垣間見えることは、農園を続ける一つの楽しみでもあると、雅之さん。「生産者は消費者の顔が直接見えないですが、チェサピークさんと共に歩むことで、自分たちのイチジクがどのような料理になり、そこからお客さんがどう楽しんでくれたのかがわかって、励みになっていて。プレッシャーもありますが、作る喜びを実感します」と雅之さんは嬉しそうに言った。
古川農園の実りは、
すべてが揃った黄金比
実は、節子さんは83歳。それで変わらず、畑へ出ている。自身は「散歩の代わりに、畑に来ているだけ」と言うが、毎日イチジクの様子を見守る姿は、この木々のことを全て知る大地のようにも感じる。そんな節子さんと比べると、雅之さんはまだ畑歴は短いが、最後にこう語ってくれた。
「やっぱりイチジクは生きもの。手をかけたらかけただけ応えてくれるのが嬉しいんです。イチジクと向き合ううちに、自分自身も、生きているんだということを再認識できたと思います。生きるということが実感できるというか。だから自分もイチジクも、生きて育っていくということをしっかりと感じ取りながら、これからもを続けていきたいなと思っています」。
猪名川の水、太陽の光とエネルギー、川西ならではの土壌。この自然をふんだんに活かそうとする節子さんと雅之さん。そして、そこにしっかり応えようとするイチジクの木々たち。この全てがぴたっと揃う環境だからこそ育まれた古川農園の実りを、ひと口ひと口大切に味わう。そんな贅沢なひと時をフェアで体験できるのは、ここグランフロント大阪が、古川農園から近く朝採れが届く距離だからこそ。
“くいだおれ”と呼ばれる食文化が大阪に根づいたのも、こうやっておいしいものが集まる立地のおかげ。そんな大阪だからこそ味わえる、この秋だけの贅沢なひとときを、ぜひグランフロント大阪で楽しんでください。
Profile
Chesapeake
今回取材した古川農園の
イチジクを使ったオードブル
取材時はちょうど収穫が始まる頃。たっぷりと水分を含んだみずみずしいイチジクが完熟を迎え始め、もぎとった実は、秋まで続く収穫期が盛大であることを、教えてくれるような豊かさだった。フェアのひと皿には、濃厚な甘みをもった秋のイチジク。その味わいに胸をワクワクさせながら、足を運んでみてはいかがでしょうか?
川西産朝採れイチジクとハモのサラダ仕立て
トマトのゼリーを添えて
マルセイユコース〈全5品〉
お一人様8,830円〜 (税サ込)
※〈要予約〉コースの一部として提供
詳細は、FAIRページをチェック
創業40年のフレンチレストラン、チェサピーク グランフロント大阪店。地中海を思わせる内装の中で、南フランス料理を楽しめる。グランシェフ中村が自ら厳選した食材を活かし、伝統的な技法に新たな視点を加えた創作フレンチを提供。素材の持ち味を引き立てたコースは、ここでしか味わえない特別な一皿が並ぶ。
店内ご飲食(消費税10%)
テイクアウト(消費税8%)
※表示のない商品は、店内ご飲食のみのご提供となります。※価格はすべて税込です。※価格記載のない商品はイメージです。※一部店舗により期間は異なります。※お酒は二十歳になってから。 飲酒運転は法律で禁止されています。※数量限定、食材の在庫により品切れの際はご容赦ください。※料理画像はイメージのものもございます。実際の商品と異なる場合がございます。※料理内容・価格は変更になる場合がございます。※提供時間は店舗により異なります。詳細は各店舗にてご確認ください。※テイクアウト時、 袋代が別途必要な場合がございます。※テイクアウトとデリバリーでは表記価格と異なる場合がございます。詳しくは店舗まで、 ご確認ください。※内容は予告なく変更する場合がございます。※営業時間を変更・休業している場合がございます。詳しくはホームページをご確認ください。※掲載情報は、2025年9月10日現在の情報です。