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シェフが行く、豆を学ぶ生産地ツアー 〜兵庫県丹波市〜

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グランフロント大阪には、90をこえる飲食店がある。そのシェフたちと、つながる全国の生産者とともに食の目利き力を磨くプロジェクト、それが「Umekiki」だ。プロジェクトの一環で、シェフたちが生産地を訪れ食材を目利きを行う。それらは、館内に設置しているフリーペーパー『Umekiki』でも特集し、館内一帯ではシェフたちが出会った食材を使った料理フェアも開催する。

 

今までに青森県から沖縄県まで、津々浦々訪ねてきた。今回、2020年1月に開催する料理フェアの食材、“豆”のなかでも、地方で守りつがれている在来品種の豆について学ぶべく、『La Terrasse Café et dessert』パティシエの石井莉さん、『福太郎』店長の吉田壽男さん、『GATE2 FIELDER’S CHOICE』キャプテンの北中麻里さん、3名のシェフとともに兵庫県丹波市を訪れた。

 

 

 

 

2019年11月下旬。JR福知山線・篠山口駅を降りた一行は、丹波市で有機農業を営むKOM’S FARMの小村晋さんの車で、丹波市春日町にある畑へ向かった。

 

兵庫県東部に位置する丹波市は、神戸三宮から車でおよそ一時間、大阪駅から電車で一時間ほどの距離だ。訪れた日は気温が低く、丹波市は大阪・神戸市内よりもいっそう風が冷たく感じられた。向かう道中の景色は見事。金色(こんじき)にいろづく畑や紅葉する山々、都会からこんなすぐの場所にある美しい自然に、取材一行みな、思わず感嘆の吐息がもれた。

 

今回訪ねる作物は、大きく分けて『丹波黒大豆』『丹波大納言小豆』『丹波白雪大納言』という在来豆。この地方特有に発生する、昼夜の寒暖差が生む深い『丹波霧』は、黒豆や小豆が大きく成長するのに欠かせない潤いだ。

 

小村晋さん・香織さんご夫妻は、6年前に神戸市灘区から移住し、有機農業をはじめた。もともと夫・晋さんが農業に興味を持ち、家庭菜園をしたり、独学で栽培していた。香織さんは、野菜の勉強を深めるため、野菜栽培士の資格も取得したほど。

本格的に有機農業に取り組もうと移住先を探しているなかで、有機新規就農者へのサポートが充実していたこともあり、丹波市に決めたという。

 

小村さんの野菜は、力強い。生命がみなぎっている。「野菜を健康に育てることを大切にしています。肥沃な土壌をつくり、虫にやられない農法を取り入れています。野菜だって、虫に食べられたくないですよね。肥料をたくさん入れると、葉っぱは早く大きくなりますが、弱いからだになってしまいます。そうなると、虫に食べられやすくなってしまうんです」と、小村さんは想いを込めて話す。

 

シェフたちも、あまりにもいきいきとした人参を目の間に、思わず葉っぱを味見。「味が濃い!」「香りたかいですね」と口々につぶやく。両親が農家だったという吉田壽男さんは、「どんな農法なんですか?」と関心高く、質問が飛び交った。

 

さて、在来豆の話に移ろう。小村さんの畑で育てている在来豆は、『丹波黒大豆(通称“丹波黒”)』だ。「今年は9月に起きた台風の影響でうちの畑は不作でした。風向きのせいで実が飛んでしまって…」と、肩を落とした小村さん。あらためて、自然の影響をもろに受ける農家さんのご苦労が身につまされる。

 

こちらは、丹波黒大豆の変異種『丹波青大豆さやひかり』。約20年前、丹波市春日町のとある農家が、黒大豆の選定をしていたところ、薄緑色をした青大豆がまじっているものを見つけたという。一定量の青大豆を集めて試験栽培を繰り返し、単一品種として収穫できるまでになった。そして2010年、農林水産省に新品種として登録も完了。

 

さやひかりに黒大豆の花粉がつくと、たちまち黒色の豆になってしまうため、黒大豆の畑から100m以上離して栽培する必要がある。小村さんの畑でも栽培を始めているが、まだまだ少量生産にとどまり、市場にはほとんど出回らないという。「これで青大豆とうふをつくると、とっても風味豊かでおいしいんですよ」と、笑みがこぼれる香織さん。

 

どの場面を切り取っても美しい田園風景が広がる小村さんの畑に、うしろ髪をひかれつつ、一行は次の目的地へ。

 

県道69号線沿いを車でおよそ5分走り、丹波市春日町東中(ひがしなか)にある』大納言小豆発祥之地』の石碑を訪れた。丹波大納言小豆は、大粒で光沢が美しく、表皮が薄いのに煮崩れしにくく、甘みがある。大納言小豆発祥の地、春日町でつくられるものは、特に『丹波春日大納言小豆』と呼ばれ、希少価値が高い。江戸時代に朝廷に献上され称賛されたことから、『大納言小豆』と称されるようになったという。大納言小豆は煮ても割れにくいことから、「殿中で抜刀しても切腹を命じられない」という当時の高級官職“大納言”が命名の由来になっているそうだ。

 

次に小村さんと一緒に向かったのは、市島町の高見康彦さんの畑だ。父親の代から米を中心に、有機農業を営む。丹波黒大豆のほか『丹波春日大納言小豆』『丹波白雪大納言』も栽培する。

 

「丹波春日大納言小豆は、手間がかかって、難しい豆です。地元の人が種を拾って撒いて、細々とつないできました。だから、自分たちも大事に育て、次の世代につないでいきたい。丹波の土地を守っていきたいんです」と、高見さんは迷いのない言葉で語る。

シェフたちは、その希少価値の高い豆たちを手に、「くすんだ色なんですね。売られているものは、もう少しツヤがあるので」と聞くと、「収穫した後、選別しているうちに、豆同士がこすれるなどして、ツヤが出てくるんです」と、高見さんは説明した。

別のシェフは、「角ばっていますね。俵型に近い」と、形の違いに気づく。

「そうなんです。北海道のものは丸形、丹波大納言は俵型で積み上げることができるんですよ」、と高見さん。

 

さらにレアな品種が、『丹波白雪大納言』。その名のとおり、白い小豆だ。兵庫県農林水産技術総合センターに、原種保存のために残されていた最後の100gを、丹波市のとある人が品種を守り続けるという約束で譲り受け、8年の歳月をかけて復活させた。

 

高見さんが副組合長を務める丹波白雪大納言生産組合が管理しており、丹波市内だけ生産されている。「協力してくれる農家と栽培していますが、まだまだ生産量は少ないのが現状です。2018年から市内の和菓子店などへ加工用としての販売がはじまりました。大納言小豆の赤と、白い小豆。ふたつ合わせて地元のブランド力を高めていきたい」と、丹波市のさらなる活性に力を注いでいる。

 

「はじめて白い小豆を見ました。どんな味がするんだろう…」というシェフの声に対し、高見さんは、「めちゃくちゃおいしいですよ!白餡は一般的に、白いんげん豆を使ってつくられますが、この白小豆を使うと、あっさりとしながらみずみずしく、豆本来の味を強く感じます」。

シェフ一同、「食べてみたい!!」

 

続いて、別の場所に移動し、『丹波黒大豆』を栽培する畑へ。直径1cm以上はある大きな粒と漆黒の色つや、甘みとコクは豆のなかでも群を抜く。丹波黒は特定品種ではなく、在来品種の総称で、『川北黒大豆』『波部黒大豆』『兵系黒3号』に統一されている。「最近は、種が流出して“〇〇産丹波黒豆”など各地で販売されていますが、やはり昔から根付いている土地だからこその品質があると思います」と、高見さんと親交の深い小村さんは話す。

 

黒大豆の若いサヤを10月に収穫する枝豆も、大粒と豊かな風味が人気だ。サヤにアントシアニンの黒いしみが出てきて、甘みとコクが増す10月中旬~下旬頃が、黒枝豆の一番おいしい時期だそう。取材に訪れた11枝豆の収穫が終わり、正月用の黒豆が収穫を待っていた。

 

有機JAS認定を取得している高見さんは、「仲間たちと協力して、土壌分析をするなどして、いかに安心安全で、かつおいしい作物がつくれるか、研究の日々です」と、勘だけではなく、データに裏付けされた方法で有機農法を確立している。

 

「栽培するうえで何が一番大変ですか?」の問い、苦笑しながらこう答えた。「収穫したあと、こたつに入って夜なべで選別するんです。大きさをそろえたり、割れやしわなどを手作業で。なかなか骨の折れる仕事ですが、こればかりは機械に任せられません」。

 

あっという間に時は経ち、16時頃には日が暮れ始めた。畑はますます輝くこんじきに…。

12月に入ると、一層厳しくなる丹波の冬。ピーンと冷たい空気の張った深夜、かじかむ指先で、背中を丸めてひと粒ひと粒選っていく。今年のおせちの黒豆煮は、丹波黒大豆で炊いたが、そんな農家さんの姿が目に浮かび、いつもよりも愛おしく、背筋のしゃんとする思いでいただいた。

 

▼シェフのコメント

La Terrasse Café et dessert』パティシエ・石井さん

産地訪問は初めての経験でした。みなさん、いろいろな工夫をしたり、チャレンジされていてすごいなぁ、と思いました。豆はスイーツに使ったことがなかったので、黒豆や小豆を使ったもの、何かトライしてみます。

 

福太郎』店長の吉田壽男さん

実家が農家だったので、僕なりに農家さんのご苦労や農業の大変さはわかっているつもりですが、実際に訪問してお話して、改めて実感しました。それに、みなさんがとてもよく研究されていて、その努力に感心しました。わたしも刺激を受けて、より一層料理に気合いが入ります。

 

GATE2 FIELDER’S CHOICE』キャプテン北中麻里さん

 

農家さんには、ただただ、尊敬するばかりです。今回訪問したみなさんは、在来のものを守りつつ、常に新しいことも考えておられて、その攻めの姿勢にも共感を覚えました。なかなか難しいことですが、わたしたちも見習わなければ!と思いました。

 

 

「Umekiki」プロジェクトは、今後も各店のシェフたちと日本全国にある生産地をたずね、梅田の都心から生産者の思いを伝える活動をつづけてゆく。

記念すべき2020年最初の“豆”フェアでは、『豆が主役フェア-豆料理を味わい尽くす34日間』 をはじめ、豆まきイベントなども実施する。ぜひ、足をはこんで体感してほしい。

次の食材・訪問地はどこになるのか、そしてどの店舗のシェフが訪れるのか…。次号もお楽しみに。