●シェフの教室-野菜でヘルシーに愉しめるイタリアン精進料理を学び味わう-
野菜を使ったヘルシーなイタリアン精進料理の教室が南館7階にある、イタリア料理Tana La Terrazzaで開催された。今回の企画のために福井県を訪れた大嶋シェフ。福井県は人口に対する寺の数が日本一といわれ、一般家庭にも精進料理が根付いている地。この教室では、福井の僧が提唱するハイブリット精進料理や伝統野菜の生産者を取材した大嶋シェフが、野菜たっぷり「からだに優しいイタリアン精進料理」を考案。それを一緒に学び味わうというもの。デモンストレーションと共に、どうしてこのタイミングで砂糖や塩を入れるのかなど家庭で役立つ料理のワンポイントやアレンジ方法なども紹介。熱気に包まれた会場の様子を紹介しよう。
●イタリアンと精進料理

食材の味を活かすという意味において、イタリアンと和食は似たところがあるので「最初は簡単かな」と思ったというシェフ。だが、精進料理には決められたルールがあり、動物性たんぱく質を使わないだけでなく、五葷(ごくん)と呼ばれるネギやニラなど煩悩を刺激する食材は使えない。イタリアンで重要な「ニンニクやチーズ、生ハムなどを使えなかったのは非常に難しかったですね」とシェフ。これらの食材を使わず、どのような料理が登場するのか、みんな興味津々だ。
●「さしすせそ」の理由

シェフの挨拶も早速にレクチャーがスタート。一品目はカブのマリナート。
「野菜の基本的な調理方法なので、家でも活用できますから覚えてくださいね」とシェフ。
カブの皮を厚くむき、串切りにして軽くグラニュー糖をふる。「いきなり塩をふると脱水しすぎて旨味が抜けてしまうので、塩よりも浸透圧の低いグラニュー糖で一度ゆっくりカブの水分を出します」。カブから出た水分がグラニュー糖を溶かし「表面をコーティングするので艶々になるとともに、カブの旨みを閉じ込めるんです」。それから塩を振り、さらに水分を捨ててレモンなどを絞ったら完成だ。

「今日は精進料理なので調理段階ではお肉は使いませんが、家で食べる際には生ハムを添えると美味しいですよ」と、盛り付けをすると一気におしゃれ度アップ。参加者から「わー!」という歓声が上がった。
●ほんのひと手間加で出来上がりが違う

続いては、菜の花の丘上げ。
菜の花は下を切って水に30分~1時間ぐらい浸け、シャキッとさせるのがポイントだ。「水に浸けていないのと、浸けたものを見比べてみてください」とシェフ。このひと手間でボイルした時に全く違う仕上がりになるそうだ。
さらに「茹で上がった野菜を氷水などに晒すと色は鮮やかになりますが、水っぽくなってしまいます」。そこで熱いうちにタオルなどの上に置いて軽く水を切り、塩をふる。「冷めると同時に塩が入っていきます。この調理法を丘上げといいます」。なるほど、見た目も水っぽくなくふっくら仕上がっているのが分かる。

▲「家ではお造りを添えると、いいですね。菜の花のほろ苦さとお造りが良く合いますよ」と大嶋シェフ
●ニンニクの代わりに使う「あるもの」とは
3品目はサトイモのアグロドルチェ。アグロドルチェとは「甘酸っぱくした」という意で、甘酢煮のようなものだとか。
「福井で里芋の煮っ転がしをたくさん食べたんです。それをイタリアンに見立てて作ろうと思いました」。本来はニンニクを使う料理だが、今回はなんとそのコクを梅干しで代用するのだとか。

フライパンに油を引いて梅干しを種ごと入れ、油に梅の香りを移す。「この種がいい仕事をするんです」とシェフ。そこに湯がいた里芋を入れて塩をし、ある程度、火が入ったらグラニュー糖を。「今度は先に塩をしてから砂糖を入れます。これはキャラメリゼしたいからです」。表面がカリッとしたらバルサミコと水を入れ、30分ほど炊いて完成。

▲「ジェノベーゼソースをかけると一気にイタリアンぽくなりますよ」と大嶋シェフ

続いては、キノコのトリフォラーテ。トリフォラーテとはトリュフのような、という意味。今回、ニンニクの代わりに使うのは乾燥シイタケ。丸のままの乾燥シイタケをハンマーで砕き、ニンニクの代わりにするのだ。

油に入れ、香りが立ちだすと参加者から「ナッツみたいな香りがします!」との声。不思議なことに乾燥シイタケがナッツのような香りになる。

そこに鷹の爪を加えてから生シイタケを。「キノコは手で割いた方が香りも味もいいですよ」とシェフ。強火で炒め、水分が出る前にバターを加えて風味付け。「本来、精進料理では動物性のものは使えませんが、お坊さんの中には殺生をしなければOKという方もいらっしゃるので使ってみました」とシェフ。
こうでなくてはいけない! と、こだわりすぎない心も精進料理には大切なのではと話す。

最後にイタリアンパセリをかけて完成。「家では炊き込みご飯にしたり、リゾットの上に添えてもいいですね」。あまりにも香り良い一皿に「わー!」と歓声が上がった。

最後は、紫キャベツのヴィネガーマリネ。一枚づつめくり、水に浸してハリを出す。芯を中心に2つに切り、重ねて5ミリの細切りに。「真ん中で切ることで、バランス良くいき渡せることができますよ」。
この料理も本来はニンニクやベーコンなどを加えるのだが「今回はドライトマトと干しブドウの旨味成分を使ってアレンジしてみました」。まず半分に切った干しブドウを油に入れ、甘みを移す。続いてドライトマトと鷹の爪を投入。油に香りが移ったらキャベツと塩昆布を加えて、塩コショウをする。

グラニュー糖をひとつまみし、キャベツをコーティングしたら赤ワインビネガーを。「紫キャベツの色素が赤ワインビネガーに反応してより赤くなりますよ」。一気に変化する香りと色に「いい匂い~!」「鮮やか~」の声。

▲「家ではカツを添えるのもいいですね」と大嶋シェフ
●参加者みんなでニョッキを作ってみる
最後はジャガイモのニョッキ。これは参加者も各テーブルで作った。
本来は茹でたジャガイモを裏ごしするが「ビニール袋に入れて潰すのもいいですよ」とのこと。小麦粉、卵、塩、粉チーズを加えてフォークを使って成型していく。

▲真剣な表情でニョッキ作り

▲完成したニョッキを茹でてもらう
「フォークの上でクルンと回しながら、筋目をつけるのが難しい!」などと言い合いながら、各テーブルでニョッキ作り。完成したニョッキと記念写真を撮ったりと楽しそうだ。
●いよいよ試食

まず運ばれてきたのは、デモンストレーションで作られたイタリアン精進料理にキッチンで別に作られた精進料理をプラスした色鮮やかな前菜プレート。

続いて石窯で焼かれるTana La Terrazza自慢のナポリピザ。今回は精進料理なので野菜を使ったオルトラート。ニョッキはジェノベーゼソースでいただく。

料理を食べながらのシェフへの質問コーナーでは、参加者から多くの質問や感想が寄せられた。

料理の感想は「シイタケは言われなければ、シイタケと分からないぐらい!味も本当にナッツみたい」。「魚や肉、ニンニクが無くても十分満足。シイタケやドライトマトなどを使うことで食べごたえがありました。想像以上!」と大好評。「家でも使える技法を沢山教えてもらったので、料理のアイディアが浮かんできました」との声も聞こえてきた。
最後に大嶋シェフからデモンストレーションで作った以外のイタリアン精進料理のレシピを各参加者にプレゼント。今回の教室では、意外と知らない料理の基礎と家でも簡単に作れる野菜たっぷりヘルシーな精進料理を教えてもらい、様々な目利き力を教えてもらえる時間となった。